ゲスト：小松 祐介（こまつ ゆうすけ）
税理士

平成14年4月に小松会計事務所を設立。平成17年１2月、アークス総合会計事務所に名称を変更し、現在に至る。社内税理士や公開準備に携わった経験を活かし、会社の外部からだけでなく、お客様のより身近な存在としてさまざまなアドバイスを提供している。IT関連事業の専門知識力により若手社長より多くの支持を受けており、現在、200社以上のクライアントを持つ。

　起業家にもお金の流れを把握できる人とできない人がいます。特に、専門職で職人気質の人は、資金の管理や経営的要素が欠けていることが多いように感じます。事業を回転するのにいくら、坪単価はいくら、席数はいくら、といった数字の概略をしっかりと把握した上で、外部コンサルティングに依頼し、資金がどこまで続くかを分析してもらうのがいいと思います。そういったノウハウを自分自身で持っていらっしゃる方は少ないと思いますので、外部のブレーンが必要になってくるでしょう。

飲食店にしても、Ｅコマースにしても、初期の設備投資がかかる事業を行う場合、運転資金を調達しなければならない。そこで、運転資金がいくら必要なのかを見積もりできなければうまくいかないですし、続いていかない。つまり、自分なりに資金運用の仮説を立てることができないといけない。

さらには最悪のケースもしっかりと見積もりできること。多くの人は、1年後の売上げは１億円といった、右肩上がりの最高のケースしか考えずに事業の設計をしてしまいます。「現実的に運営することができるのか」という冷静な判断力がある人は、しっかりと数字を分析して事業計画を自分で作って運営できると思います。

ただ、いろんな事例を分析し、考えていてもどうしても判断がつかないという場合も多いでしょうから、そういう時は外部のブレーンに聞いた方がいいでしょう。

外部のブレーンというのはどういった人になるのでしょうか？

　会計士、税理士がいいと思いますが、大規模な事業で会計士や税理士では対応できない内容であれば、専門家でその道に詳しく精通している人に聞くことだと思います。

自分で具体的に仮説、検証を立てる上で、多くの人が見落とす要素はありますか？

　バックグラウンドがあって、知識や経験がある事業で独立する人は、どういった要素が必要かを把握できているので失敗することはあまりないと思います。

事業をする母体が変わっただけで、事業自体は延長だからですね。

　そうです。経営という要素を除いては、今までやっていた事業を行うだけですし、30歳前後でも前職で幹部としてやっていた人もいらっしゃいますから、そういう人たちは問題なくしっかりと立ち上がります。

そうではなく、異業種から進出してきた人は「何をやっていいかわからない……」とつまずくケースがあります。また、そういったとき、誰かに頼るのですが、誰かひとりに頼りすぎる傾向にあるようです。例えば、税理士の先生ならその先生のみ、友達なら友達のみと頼りすぎてしまっている。そういう人の話を聞くと、自分の世界で夢ばかりが膨らんでいて客観性を失っている場合が多いのです。

例えば、多くのクライアントの事例から客観的にアドバイスを差し上げても、聞く耳をもたず、そのまま突っ走ってしまい、うまくいかなくなる方もいらっしゃいます。今まで自分がやってきた類似業種以外で、ビジネスをスタートした人で、事業がうまくいくケースは少ないと言っていいかもしれません。

カリスマ性や経営手腕が備わっている起業家はどうなのでしょうか？

  学生ベンチャーで成功している人は、学生時代クラブ系のイベントをやったり、学生を集めて売上を上げたりと、プチ事業をやっていた人などが多いですね。

成功する人は、商品・サービスが入れ替わるだけで、経営者としての経験を積んでいるのですね。

起業がうまくいっている人は、どこかで何らかの擬似的な経験をしています。今まで何百社も企業を見ていますが、専門的知識や経営の類似体験がなくてもうまくいっている人は、真剣に考えないと思い出せないですね。

ということは、そういう人はほぼいないに等しいということですね。

やはり該当事業の経験や知識、経営資源について詳しい人脈を持っていることは必要でしょう。無償であれ有償であれ、何らかの情報提供を受けられる人や、外部から情報リソースを得られる環境がないまま、独立するとなかなか難しいかと思います。

例えば、ネットビジネスを始めようとしたとき、経験がない人でもオークションへ出品したり、アフィリエイトで稼ぐなど、小さいながらもビジネスの練習ができると思うのですが、そういった小さな経験を積んでから独立するパターンはどうでしょうか？

そういった場合でも、すでに経験や知識もあるということになりますし、人との繋がりや顧客も獲得できていたりすれば、うまくいくケースはあります。やはり、何らかの収入を確保し、準備期間を持っているからこそ、うまくいくのだと思います。

以前はそういったことができませんでしたが、インターネットというツールによって経営資源をそろえる準備ができるようになりましたね。ネットを通じて必要な人脈を集めて、何かやるとなった時に手伝ってもらえる環境を１年くらいかけて作っておく。そうやってビジネスを始めるのも良いと思います。